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急激な物価高騰や円安などに対応するため、政府が総合経済対策を閣議決定した。対策を裏付ける29兆円超の令和4年度補正予算案も編成し、年内の成立を目指す。
企業や家計を苦しめる物価高は、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ景気の回復に悪影響を及ぼす重しだ。10月の東京都区部の消費者物価指数が40年4カ月ぶりの高い伸びとなるなど、状況は一段と悪化している。
必要な対策を躊躇(ちゅうちょ)することなく講じ、円滑な執行で実効性を高めるべきは当然である。
残念なのは、対策のとりまとめに際し規模を求める与党への配慮が過ぎたことだ。政府は直前まで25兆円超の規模を想定していたのに、自民党の反発を受けて土壇場で29兆円超にした。そのためわざわざウクライナ関連の予備費などを計上するというから呆(あき)れる。
支持率が低下する岸田文雄政権が対策の規模で世論を引き付けたいのなら心得違いもはなはだしい。今一度、財政政策のあるべき姿を見つめ直す必要がある。
対策には、電気・ガス代の負担を軽減する支援や中小企業の賃上げ促進などの物価高対策のほか、円安を追い風にするための観光・輸出促進策などが幅広く盛り込まれた。政権の看板の「新しい資本主義」関連では、妊娠・出産時の経済的支援として10万円相当の支給などが含まれる。
総じてばらまき色が濃い。真に支援すべき対象をもっと見極め、そこに十分な手当てをした方が効果的だったのではないか。
英国のトラス前首相は大規模減税策が市場の大混乱を招き、退陣に追い込まれた。経済情勢が異なる英国と日本を同列には扱えないが、野放図な財政運営の危うさは日本にとっても教訓となる。
急激な物価高に対応するため、対症療法であっても即効性のある施策を優先するのはやむを得ないが、岸田政権が財政運営で重視すべきは、あくまでも日本経済の中長期的な構造改革である。
例えば円安は日米金利差が主因だが、底流には金融緩和から抜けられない経済の弱さがある。企業の内部留保は潤沢なのに賃上げが力不足なのも経営の先行きが不透明だからだろう。ここから抜け出せないと「日本売り」の状況は今後も解消されまい。年末に向けた来年度の当初予算編成でも銘記しておくべきことである。
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2022年10月29日付産経新聞【主張】を転載しています